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2006年9月11日 (月)

ポゴレリチが失敗した時

 YouTubeにポゴレリチの演奏がアップされていました。Chopin - Sonata Op. 58 (4th mvt)

済みません、文中と末尾に訂正を入れました。

 ポゴレリチというと、私はコンサートの度にこのショパンの3番ロ短調のソナタにぶち当たっているような気がしています。よく考えるとプログラム変更でロ短調ソナタになったという事は一度もなかったにも関わらず。ただ、あまり行けなかったポゴレリチのコンサートで、「夜のガスパール」三回とこのロ短調のソナタ二回という遭遇率は、そう考えてしまう理由にはなったと思います。もちろん、他のプログラムもあった訳ですから単なる偶然ではありますけど。

 最初にこの人の演奏でこれを聴いたのは83年の事です(6月8日簡易保険ホール)。今にして思うとこの時観客はポゴレリチというピアニストとのつき合い方を無理矢理学ばされた気がします。このピアニストのコンサートは、客席で全神経を集中させても、まださの上の集中力を要求されるものである、と。音楽を楽しむとか、もうそう言うレベルでは無いかもしれません。
 余談ですが、それから数日後、ホロヴィッツのコンサートでの彼の集中ぶりを見て宜なるかなと思ったものです。

 83年での演奏でポゴレリチはこのソナタを決して華麗には弾きませんでした。安川加寿子さんだったか「ショパンは男性的ですよ」と仰った方がいましたが、ポゴレリチの演奏はちょっと暗く、骨太だったような記憶があります(これはちょっと記憶が曖昧ですけど)。そしてこの演奏で特筆すべき事は三楽章が異様に遅い、という事でした。あんまりゆっくりなので聴いているこちらまで固まりそうでしたが、この三楽章は耳に残りました。このソナタでこの楽章が耳に残るというのも驚きでした。

 しかしこのロ短調のソナタではやはり一番印象に残った演奏は91年です。

私が聴いたのはAプロで
ショパン 3つのノクターン(ハ短調作品48-1/変ホ長調作品55-2/ホ長調作品62-2)
ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 作品58
ラヴェル 高雅で感傷的なワルツ
ラフマニノフ ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 作品36
というものでした。


 前半は全てインターバルなしで演奏されました。つまり3曲続けて弾いたノクターンが終わってすぐ、ソナタの一楽章Allegro maestosoに飛び込んだのです。それも同じ曲かと思うくらいにすぐ。
 これは憶測ですが、その前のAプロ演奏時、3曲目のノクターンが終わった時に拍手が起こってしまったのではないでしょうか。このプログラムは前半を完全な一つの流れとして作ってあって、ポゴレリチとしては拍手での中断を何としても避けたかった為に勢い余って間合いを短くしすぎたという気がします。事実休止符以下の短さでした。
 その為か一楽章がどうも重い出だしになってしまい、なんとかまとまってはいたのですが今ひとつ切れに欠けた感がなきにしもあらずで、続く二楽章も何故かテンポが上がらりませんでした。ポゴレリチの事なので遅いと言っても他のピアニスト並の早さではありましたが、私は三楽章がちょっと心配になりました。何故ならば遅い三楽章の大前提は二楽章の信じられないような早さだったのですから。(済みません、ここ訂正致します。二楽章テンポ普通です。何と勘違いしたんだろ、私)このテンポであとどう続けるの?と。

 で三楽章ラルゴ。
 悪い予感は的中です。想像を絶する超低速、低空演奏になりました。ポゴレリチの遅さには慣れていても、これは計算外と容易に知れる速度です。一音一音がいつ完全にばらけても不思議ではない、音楽として成り立って聞こえて来たのが不思議な位な遅さでした。
 ポゴレリチもなんとかテンポをあげようとあの手この手で頑張っているのはよく判るのですが、元々ラルゴなのでこの中でメリハリをつけつつ弾こうとしても、試みは尽く玉砕せざるを得なかったようです。左側の座席で顔は見えたわけではありませんが、ポゴレリチが青ざめながら必死に色々やっているのが手に取るように判りました。音色からもですが、引きつっているのが背中にもでていたので(笑)。
 そしてその状態のまま立て直せずに最終楽章に突入。最初の和音、見事なまでに失敗してくれました。音をはずしたのではなくて歯の抜けたみたいな、すかすかの間抜けな音をぶっ叩いてくれました。今思いだしても、笑い事ではありませんけど可笑しいです。
 しかし技巧では負けないピアニストですからこの大はずしで気持ちの切り替えが出来たのかもしれません。まさかそれは無いとは思いますが、ひょっとして自分でも笑ったんでしょうか、尻上がりに調子が戻りわずか5分の曲なのに最後は完全に、とはいかぬまでも9割9分ポゴレリチワールドに回復してました。

 同じ曲の中での回復は見込めないどころか下手をするとコンサート全体が失敗する可能性さえあるような崩れ方だったのに、最後まで曲が続いただけでなく、最終楽章のたった5分で見事に回復し、そして結果、曲として、そして前半のプログラムとしてなんとかまとめてしまったのでした。

 最終楽章が終わった直後、ぱっと椅子から立ち上がった時の、そのほっとした表情。ににこにこしながら深々とお辞儀を何度も繰り返し、客席を見渡す表情も晴れ晴れと嬉しそうでしたね。背中もそうでしたが、この日は結構感情が顔に出てました。
 これで拍手できるかいっ、失敗したのはそもそも自分じゃない、と思わないでも無かったんですが、引きつった背中を見ながら息を殺して聞き入ってたら私も疲れ果ててしまって、よかったよかったと思ってしまいました。本人喜んでるし・・・。
 弾いてた方もでしょうが、聴いていた方も消耗した演奏でしたが、ピアニストが曲の建て直しを計っているところを、あんなにじっくり聴けるなんて滅多に無いことですし、仮にあったとしても早い曲ではあそこまではっきりとは判らなかったと考えると、あのコンサートを聴けたのはラッキーだったかもしれません。しかもそれがぎりぎり破綻せず、最後にはたった一曲の中でちゃんと元に戻ったのですから、崩れてもポゴレリチと思い知った次第です。

 ほっとしたのか嬉しかったのか、後半も充実していました。何より罪滅ぼしか、アンコールでBプロの前半を弾いてくれたのが嬉しかったですね。でもあそこまで崩れたんだからBプロ全部弾いてくれてもよいのではないかと考えるのは図々しすぎるでしょうか、私Bプロ後半の「イスラメイ」結構期待してたんですけど。まさか明日の練習している?と疑いながら(笑)。

 終了後楽屋でサインをもらった時、演奏会に素直に感動していた私の母が手を出したら、握手してくれました。それも結構嬉しそうに長々と。よっぽど嬉しかったんでしょうか。
 しかしどうして握手なんかするんでしょうね、あの日のお客の殆どはポゴレリチは握手しないと思ってて誰も握手なんか求めなかったのに。それから判断するに、あの日の観客は皆様コアなファンだったようです。だからノクターンからソナタへ移るときに仮に十分間をあけたとしてもだれも拍手はしなかったと思うんだけど・・・。

 その夜、握手をし損ねた私は握手した母を乗せて高速ぶっ飛ばして家に帰りました。「もうこの手は絶対洗わない」と助手席ではしゃいでいた母は、一体誰の車に乗ってここまで来たと思っているのでしょうか。妙に殺気立った夜でした。

 という訳で、冒頭こけてないショパン、ピアノソナタロ短調作品58の最終楽章をお聴きになりたい方は上のリンクからどうぞ。

 この映像に「チューインガム噛んでる?」なんてコメントがついたために、こんな動画と関連づけられてました。"black and white" 可愛くて笑えます。

 またポゴレリチの詳しいプログラムをお知りになりたい方はよしこ様のサイト「ポゴレリチ私設ファンサイト」へどうぞ。

 訂正の追記です。
よしこ様のブログに米国公演での「ワシントン・ポスト評」が掲載されています。
よしこ様自身の去年の来日公演評も合わせて考えるとこのコンサートでの、私が崩れと思ったものはポゴレリチが最初から意図したものだった可能性がありますが、唯正直私には判りません。

  ひょっとしてテンポが遅くて慌ててたのではなくて、早すぎて慌ててたのかもという気も(悪あがきではなくて)しないではないですが。こうやって考えると、ポゴレリチってほんと、いつもそのぎりぎりの線を突いてくる演奏なので、判断も、難しいです^_^;

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