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2007年1月19日 (金)

ポゴレリッチ、マスタークラス

 20日 追記します。
マスタークラスを聴講されたナオミさまから、私が間違えてしまった部分をメールでご指摘を頂きましたので、その部分を追加させて頂きました。ナオミさま、本当にありがとうございました。
()で括って太字になっている部分と、太字にアンダーラインをつけた部分が、訂正する追加箇所です。

2月12日追記します。
Sony Music Foundationのサイトにて、公式詳細報告出ました。
「作曲家、音楽評論家 野平多美氏によるイーヴォ・ポゴレリッチ マスタークラス・リアル・レポート
そうか、ここはこうだったんだと納得することしきりでした。

2007年1月14日軽井沢大賀ホールで行われたイーヴォ・ポゴレリッチ(ポゴレリチ)マスタークラス、行って来ました。

 受講生は7人 曲目は

1)J.S.バッハ: トッカータ BWV.911(Henle版)
2)シューベルト:即興曲 作品142-3 変ロ長調(Henle版)
3)リスト:バラード第2番(Peters版)
4)ショパン:バラード第1番(Ekier版)
5)ショパン:幻想ポロネーズ(Paderewski版)
6)ショパン:エチュードよりop.25-1, 25-6, 10-5(Henle版)
7)ブラームス:作品117よりNo. 2, No. 3(Henle版)

 でした(スクリャービンはキャンセルとなったようです)。

 開始は午前十時半。ですが、ごめんなさい、私遅刻しました(大汗)。
ホールに到着した時は既にバッハが始まっていました。しかし、まだトッカータ部分だったので聞き逃した部分は少なかったと思います。
曲の合間の二分間で座席にたどり着き、次のシューベルトから聴くことができました。

 私はマスタークラスと言うものを聴くのは今回が初めてなので、他と比較して語ることは出来ないのですが、この日の受講生はプロの卵か殆どプロに近いようで、午前中の演奏だけで終わったとしても私は満足してしまったにちがいありません。

 私が気がついたのは3曲目のリストからでしたが、そのハイレベルな演奏を聴きながらマエストロ(先生とか、教授とか、そんな感じの呼称と思って下さい。まだ数日しか経ってないので、どうも名前の呼び捨てはしづらいのです。)は、楽譜に事務用鉛筆(先端に消しゴムのついてるオレンジ色の)で要所要所に書き込みをしていました。
書き込むときに紙の音がして、演奏者が聴いたら嫌だろうななどと思いつつ、私はマエストロがどこで書き込みをしたのかメモを取ってしまいました。
と言っても私はその日楽譜を用意していかなかったので大まかな所しか判りませんでしたが、それでも、曲想の変わり目とか、これはたぶんペダルについて書き込んでいるのでは、とか、ここは左手だわ、と、眺めていると案外見当がつき、眺めていて面白かったです。

 そして休憩を挟んで、十二時半過ぎに90分間の昼休みとなりました(途中、池の側をお散歩するマエストロが目撃されました)。

 グループレッスン
 
 冒頭、今回のレッスンの要点が、通訳の方によって読み上げられました。すべての受講生のレッスンはほぼその要点に沿って行われましたので、時系列ではなく、要点ごとに私がまとめたものを以下に書きたいと思います。出来るだけ詳しく書きたかったのですが、まとめないと膨大な量になってしまうため、やむなく要点のみとなりました。またレッスンは、午前中の演奏順序とは関係なく行われました。

 最初に示されたマエストロのレッスンテーマ

 大事なこととして、
左手は地下室、右手はテラス、音色(ペダルの事です)はテラスだと考えて。
強弱、メリハリもつけて下さい。リズムも正確に。作曲家の指示に正確に従うことが大切です。
(左手と右手のバランスに気を付けること。
右手が天井、左手が地下室、間が空間、テラスが音色、
(今日の演奏は)ベース(左)が不十分であったことが多かった。)

全体的に音楽的に演奏されましたが、ペダルの使い方に問題がある部分がありましたので、それについて説明します。
割愛していますが、大体このような内容でした。

 レッスンが始まってすぐ(3分以内?)、マエストロは
「ショパンはベートーヴェンほど良いピアニストではありませんでした。彼は白鍵より黒鍵を弾くのが好きでした(←たぶんそう言った)」という、話の流れでは重要なのですが、どこまでが本気でどこからが冗談なのか、含蓄がありすぎて判断に苦しむ一言を発し、会場には微妙な空気が広がったりしましたが、全体としてはマエストロはシュールな喩えを駆使しつつ、時に笑いを取るという、とても和やかなレッスンでした。

 
『拍子』冒頭から出てきたのがこれでした。
 
 拍子が大切であるという事は、このレッスン全体を通して語られました。
音は光であり休符は影である。とか、また「千円持っていて七百円の買い物をしたら、三百円のお釣りが無ければいけません。音楽とは数学的理論の必要なものなのです」(この例えは何度も出てきました。千円が一万円にバージョンアップした事もありますが、金額に端数がついたりはしませんでした)とも話し、マエストロが練習するときは、声に出して拍子を数えるのだそうです。それも各国の言葉で。
「英語は拍子を取りやすい言語、ロシア語もそう(だから有名な音楽家が多く出たこれは完全に私の聞き間違いです。)(良い兵隊)、日本語も良いですよ」などなど。
また「現代のピアニストは休符を無視しています。光と影のようなものなのに」と言いながら立って手を太陽の様にかざしたり引っ込めたりもしました。私はメモを取っていて見てなかったのですが、ここで面白いアクションがあったらしく会場が湧いていました。
この休符については、
「私がステージで楽譜をみながら弾くのは、第一に私が楽譜が読める人間であると、皆さんに判ってもらう為なのですが、同時に休符をきちんと弾くためでもあるのです」というセリフもありました。
 私など、最初は何?休符?と思っていたのですが、レッスンが進むにつれ、この話は曲の構造の説明とも重なって出てきたので例として挙げるのは適切ではないかもしれませんが、
「ショパンは教育を受けた、知的な作曲家でした。もし彼がここで16分音符を使いたかったらそう作曲出来たのです。でもここはそうなってはいません。何故そうしなかったのでしょうか。彼が作曲したように(音の長さと休符の長さを正確に)弾いてみて下さい。」との説明がありました。
また何故そこまで楽譜に拘るか、についてマエストロは
「音楽は言葉です。ラフマニノフが何を言おうとしていたのか今となっては判りませんが、楽譜をみれば彼が何を言いたいか判ります。」とか、
「ここで曲想を変えるためにショパンは4小節前からちゃんと用意を(仕込みと言った)しているのです。だからその通りに弾けば自然と曲想が変わるのです」
と言うような説明をしていました。
そして
「こうやって一生懸命弾けば、何時か評論家だって判ってくれるかもしれません。私のことですが」とジョーク。ここで会場が湧けば良かったのですが、聴講の皆様、他の人の笑い声を確認してから笑うつもりだったらしく(私もそうですが)、非常に微妙な緊張感に包まれたのでありました。

拍子についてはまた、
 「拍子」「早さ」を最初の一小節で観客に判るように示して下さい。なぜならここが曲の基礎となるのですから、と冒頭説明し、加えてレッスン中に「練習する時に一小節を繰り返して弾いたら頭痛がするので、そうは練習しませんが、気持ちとして一小節に集中して練習します。そうすると、調子の良いときはそこから音が膨らんでいきます。」という発言がありました。

『ポジショニング』

 休符を正確に取るということは、とりもなおさず正確な長さで弾く、という事のようです(たぶん)。それで、どうやってきちんと音をホールドさせつつ、次の鍵盤の位置に指を移動させるか、それもその曲に合った形で待機させるのか、という話になりました。
それがポジショニングです。マエストロによるとこれはベートーヴェンが考案したもので、彼(ベートーヴェン)は色々な楽器を演奏できたので、ある時ふと、バイオリンなどの弦の上で指を待機させる様に、鍵盤で指を待機させたらどうなるだろうと始めたのが起こりなのだそうです。
だからベートーヴェン以前にはポジショニングの弾き方はないのです、と言いながらモーツァルトのK331をポジショニングのある、なし、で実演しました。
「ね、これはモーツァルトではないでしょう?」などと、ポジショニングありのモーツァルトに対してマエストロは軽く言うのですが、モーツァルトというより、既になんだか判らないくらい変に聞こえました。確かに曲はモーツァルトでしたが。

 マエストロによると、このポジショニングは、古典用、印象派用とその後様々な発展を遂げて伝えられていたのですが、20世紀に入り二つの大戦もあって、この伝統を受け継いだ教育者が離散し、教育システムが崩壊してしまったため、現在では系統だって伝授する場所が失われているとの事でした。
またモーツァルト以前は無かったのですが、バッハなどの古典を弾く場合、このポジショニングを使ってノンレガートで弾くと、古楽器の音に一番近いとの事です。
「ショパンは曲としては古典派です。」と言いながらノンレガートで弾いたら(確か黒鍵)、違和感なしでバッハでした。

 ポジショニングを使う利点の一つに、作曲家の敷いた構造を正確に再現できる、と言うことがあるようです。
ブラームスのこの曲は5つの音から成り立っているそうで、とある部分の音(和音だったかも)はclass(階層、順序)になっているので、ここをはっきり弾き分ける必要があるとの事です。それには手のひら(と、自分の手のひらで説明)のこの場所のこの筋肉を使って下さい、という指導もありました。
筋肉のここを、あるいは肘をこうやって(肘の位置でどれだけ違うかドビュッシーで実演)、という具体的な指導は何度もありました。
足の置き場所についてもいつでも立てるように。たまに立って練習すると良いとか。
それらをゴィエスカスは構造が9つなんです~(と、演奏)、構造に関してはショパンの方が簡単なんです~(確かエオリアを演奏)などと、はっきり判るように実演しながら説明したのです。

 このポジショニングを実現する為に絶対必要なのが筋肉なのだそうで、
「リンゴを(手に)持ったような形、私は昨日ユズでこれをしましたが」
などと言いながら、お椀をかぶせたような形を必ずキープするように力説していました。
曰く、「この大賀ホールも崩れたりしないでしょう?きちんとした構造物は崩れたりしないのです。人間の体もそうできているのです。その中心は(と、言って手の平の中心を指さして)ここです。」と。
私は正直、これは基本的過ぎると受け流す所だったのですが、かなり小柄な受講生を教えるとき、また最後に手に負担をかけずに大きな音を出す体勢を教えていて、将来プロとしてコンサートをこなしていくのに一番大切な、手に負担をかけない演奏方法というのもこの日の重要なテーマだったと(私の大々的な当て推量ですが)思われます。

『ハーフペダルについて』

 このペダルを踏めば良いのですが(と、ソステヌートペダルを踏んで実演)、そうすると音が汚いのでハーフペダルを教えます。と言いながら伝授。
 まず力一杯踏み込み、「ベッカムではないのでピアノを蹴らなくて良いですよ」と、一言。会場はそれまでの微妙な笑いから、一挙に解放された様な爆笑に包まれました。マエストロもこの様子に心底安堵の表情を見せたのでありました。
 ↑続き、踏み込んで半分戻すをショパンで実演しながら指導。受講生の皆様、総立ちでのぞき込んでらっしゃいました。

 さて、個々の受講生のレッスン内容は出来るだけ具体的には書かないように致しましたが、お一人だけ、詳細報告をアップしてしまっても良いと思われる方がいらしたので書いてしまいます。
この日のグループレッスンのトリを努めた、中学1年生、廣田響子さんのシューベルトの即興曲 変ロ長調です。
 まず第六変奏をひとしきり弾かせ、途中マエストロが低音部分を一緒に連弾。その後、いくつかの部分を指して、その低音部をもっと大きく弾くように指示。ワンポイントアドバイスではありますが曲にメリハリがつき、一層素晴らしく聞こえました(この方もほんとお上手だったので)。
そして大きく弾くときのポイントとして、体を鍵盤に近づけて弾いて下さいとの事でした。確かにそうやって体重をかければ中学生でも無理なく良い音が出せるのでしょう。
 そして最後にもう一度演奏。この時マエストロは要所要所鍵盤に手を乗せて一緒に弾く真似をしました。顔はにこにこしているのですが、もし廣田さんが低音を出し損なったらマエストロの音が加わってしまうのか?と考えると、優しくはあるけれど妥協はしない先生かもしれませんです。
 などと余計な事を考えて一瞬凍り付いた私ですが、マエストロの顔はほんとに嬉しそう、楽しそうで、音こそ出しませんでしたが、あたかも父娘で連弾でもしている様な顔をしていたので、つられてこちらまで笑顔になり、この疑似連弾に聴き入ってしまったのです。
このようにほのぼのとした雰囲気の中、休憩なし、二時間半のグループレッスン終了となりました。

 そして最後にマエストロは
「今回私がお話ししたのは、ピアノを弾いている人にも、教えている人にも、明日からでも使える基本的な、実用的な事ばかりです。こういう具体的な事をきちんと教えるのが教育機関の役目だと考えています。」と言うような話をして、今回のマスタークラスを締めくくったのでした。

 私としては、講義としてもポイントを絞ってきちんとまとまった、大変充実した内容だと思いました。なので、次回があったら、ピアノを学んでいる人、教えている人にもっと沢山来ていただきたいと思います。


 オマケ

 マエストロの椅子のかけ方は大昔、ホロヴィッツのコンサートで目撃したのと寸分違わぬものでした。人間、妙なところが変わらないのですね(笑)。
しかしこの「昔と変わらぬ座り方」が、曲と曲の間の二分間に自分の座席に到達すべく、薄暗い通路を暴走していた私が、「済みません、通して下さい」と声をかけたらマエストロ(やはり通路側の席でした)、という悲劇を未然に防いでくれたのです。ほんと、そうならなくて良かったです(涙)。
今回、マエストロ関係者の席は、マエストロを含めて4席ありました。その左隣は二人連れの方でしたが(つまり私の右隣の方達です。そうです。今回も私はポゴレリッチと5席左でした)、終始硬直されてらっしゃるのが隣に座っていても伝わってきました。お気の毒に・・・(笑)

 オマケ2

 マエストロは受講生に指摘をして、その後さりげなくフォローを述べるというスタイルでレッスンをしていた様です。しかし私が家に帰ってからメモを読み返してみると、男性受講生に対するフォローより、女性受講生に対するフォローの方が、質、量とも多かった様に思えてしまうのは、私の気の迷いでありましょうか?

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コメント

マスタークラスに行かれたのですね。先日、お会いした際には、行けるかどうか、迷っているとのことでしたが、道中、ブレーキが踏めない!などの症状も無く、無事に、ご帰宅されて何よりです。やはり、フロント・ウィンドウには、ウォッシャー液を吹きかけると、視界も良好で、あったでしょうね。それとも、退屈な運転を、しながらでも、肩を、ゆっくりと、まわしていたのでしょうか?全然、記事の感想になっていませんが、ブログの感想ということで、、はいすみません。色々な記事から、パクらせて頂きました。


JohnClark様

 埋め立てた古傷、もとい古記事を発掘されてしまいましたか(大汗)
 行って参りました。髪の寝癖もそのままに、途中で引き返すのもありかしらん、などと考えながらも、どうにか無事、行って、尚かつ『帰って』参りました(威張ってどうするという話ですが)。
只行きがけ、間違えようのない道で、確かに道は間違えてなかったんですが、頭の中にある軽井沢町の場所がえらく違っていて(町は何時移動したんだろう?)、路肩に車を停めて、地図を見入ってしばし呆然と佇むこと数回。あれがなかったら遅刻しなかったかもです(笑)。

楽しく拝見させていただいております。
ポゴレリチ・マスタークラス&ポゴレリチ(ホロビッツ演奏会)追跡編は以前拝見しましたが、ホロビッツ演奏会を含め改めて拝見しました。いずれもたいへん興味深かったです。
吉田秀和氏のコメント「ひびの入った骨董品」については当時衝撃を受けました。まさか演奏会の途中でのことがと驚きました。仮装ピアニスト様のサイトでもホロビッツの「ひびの入った・・・」について書いてありました。ご覧になりましたか?
しかし、ぽんず様、ホロビッツの演奏会に行かれたとは、凄いです。お席も凄いです。そして記憶力、素晴らしいです。
ポゴレリチの追跡編は楽しかったです。

はるぴょん様

 書いた張本人が無責任にも言い放つ、あの長文記事、読んで下さってほんとに嬉しいです。ありがとうございます。
仮装ピアニストさまのブログはちょいちょい覗いていたのですが、ご紹介の記事は読み損なっていたようです。読みました。ピアノをあのレベルで弾く方の感想、また昔から吉田さんを読んでらした方の感想は学ものが多かったです。
実は私、永いこと吉田さんには八つ当たり的遺恨を抱いてたんです。でもコメントして下さった94丁目さんの書き込みなどや、この仮装ピアニストさんの見解で私もより広く考えられる様になれたのがとても嬉しいんです。
それからアルゲリッチがあのNHKのビデオを観たという話。これも初めて知ったのですが嬉しかったです。あのアルゲリッチが凄いと言ったなんて。ラジオの録音、もっと凄いですよ。
>お席も凄いです。
 これは私もそう思います。多分二十数年後に出会う人物の為に導かれたに違いありません。この大賀ホールでも同じ列だと判った瞬間、私は心の中で「よしこさま~~っ!」と叫んでしまいました(笑)。おそるべしっ!よ○こさまっ!(逃)

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