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2007年9月23日 (日)

ケネス・ブラナー版 「魔笛」

2006年にモーツァルト250誕生周年を記念して有力オペラパトロンの依頼でブラナーを監督にして製作されたもの。ブラナーはそれまでオペラには詳しくなく製作に三年かかったそうです。

 ブラナーは今までもシェークスピア劇の映画化で、台詞をそのままに建前をざっくり切り取る鋭さ、毒、時代の移り変わりを織り込んだ新しい解釈など息をのむ様な演出をみせてくれるのに、定期的に失敗したりしているので期待と戦きに胸を震わせ観て参りました。期待以上です。毒、諧謔、希望すべてが揃って、しかも映像表現が見事。

 冒頭の吊っている糸を探したくなる鳥の群が飛ぶのどかな花咲く丘。この出来の良くないおもちゃの様な場所で繰り広げられる第一次世界大戦。この人形の様に兵士が次々倒れていく英雄譚もなく美談もない毒たっぷりのシーン(「ヘンリー五世」を思い出す)は、ジーバーベルクの「パルジファル」(すみません。あまりに昔に観たのでこの作品か確信が持てません。冒頭に人形が出てくるので多分これかと思います)に似た異界的雰囲気を濃厚に醸し出しオペラの持つ現実との齟齬を薄めています。ブラナーはこれも観たのではないでしょうか。つまりそこまで研究した様な気がします。

 タミーノとパパゲーノは塹壕の中にいる若い兵士という設定。歌詞は英語。最初パパゲーノのアリアで「ホイサッサ」が消えていた事に不満を感じましたが、その不満はすぐ消えました。言葉が曲に合ってるし、何より韻を踏んだ響きの素晴らしいこと。私英語版の「魔笛」なんて初めて聞くのですが、元々こういう歌詞なのでしょうか。クレジットには訳詞にブラナーの名前もありましたが、ブラナーの訳ならこの言語感覚は賞賛に値するのではと、英語のあまり出来ない身の上で思ってしまいました。
若き兵士タミーノが負傷した所へ三人の侍女が現れる訳ですが、原作の竜は死のメタファー(これが上手い!)になってます。元々死のメタファーなんでしょうか。煙をちょっとだけ吐いて、電球がちかちかするおなじみの竜にこんな意味があるなんて、私は全く気がつきませんで^_^;
 

 映像の凄さにも種類があって、まず曲をイメージした時のブラナーの発想の凄さ。
冒頭のドラゴンはもとより、第二幕のザラストロのアリアのメッセージ性など挙げればきりが無いのですが、こういうシーンを考えつく人の頭の中を見てみたいと思うし、それを妥協無く撮らせたスポンサーの財力(どれだけお金があるのだろう)にも感嘆しました。しかも音楽に合ってます。
次に曲だけでは判りにくい部分への映画ならではの細かい補足。これは夜の女王の実際や、タミーノとパミーナの成長を軍服の色で表すあたりとか。舞台では不可能だったでしょうね、間違いなく。
そしてブラナーの真骨頂と私が思っている「台詞は正統、映像は鋭い切り返し」手法も満載でしかも冴え渡ってます。土砂降りの中で歌う少年の三重唱、人間以外が歌う僧の合唱の、人間の愚かさに対するもの凄い毒。私は最後にとんでもないオチがあるのではと恐怖さえ感じましたよ。オペラでオチを期待するというこの異常事態(笑)。

 諧謔というよりおちょくりを込めているのにそれを悪ふざけにさせないというのは、誰にでも出来る事ではないでしょう。パパゲーノとパパゲーナの大衆性とタミーノ、パミーナの精神性という演じ方を捨てて、どちらも若者という書き方をしても好感を抱きこそすれ、不快感はありませんでした。
このおちょくりで今度は「イドメネオ」などを作って欲しいものです。いや、いっそベートーヴェンの「フィデリオ」とか。と妄想たくましくする私なのです。

 ブラナーは三年間魔笛にのめり込んでいたのではないでしょうか。ここまで考え、ここまでやってのけたのは当に天晴れです。魔笛を見たことのない人でも楽しめるように作ったとブラナーはインタビューで語っていましたが、魔笛を見てない人はオーソドックスなのを見てから映画に臨んで欲しいです。知らなかったらもったいないです。

 最後にあざといかそうでないかぎりぎりの線なのですが、第二幕のザラストロのアリア、戦死者の墓地なんです。その墓碑にはあらゆるペルシャ語やアラビア語と思われる表記も含めて名前が(日本人もかなりありました。松本勉次郎 享年十九才さん他多数。実在の人物だったのでしょうか)あり、それが何処までも増えていくのです。そしてラストは・・・。
希望というのは絵に描いた理想もしくは夢想の類かも知れませんが、歌って何も変わらないだろうけれど、だからといって歌った人間を馬鹿にしてはいけないだろうと思いました。私、思わず歌うかもです。(ちなみにザラストロと夜の女王の確執は、先例がある両者の個人的な過去説を採用しています。その方がラストのテーマを描きやすかったのかも、です。)


 と、書き終わってから新聞評を探しました。
これを読めば私のなど読む必要はないのですが(というか、順序がそもそも逆ですね)
Peter ConradのSunday April 23, 2006 Observer Music Monthly 、制作中にセットに入っての見聞や、インタヴューをしての記事(リンク)です。
 
 出資者はSir Peter Mooresさん(正確にはムーア財団)で、この企画をずっと温めていたのだそうで、最初はアッテンボローに頼むつもりだったとか。
冒頭のシーンはCG使っているそうです。あれまともに撮ったらどれだけお金かかるか判りませんものね。
 脚本はStephen Fryさんの新訳で情け容赦のないarch悪戯っぽい?カプレット(2行詩)などと、ザラストロ役のドイツ人歌手ルネ・パーペの台詞回し部分で書かれています。
ブラナーはフランスにある第一次世界大戦戦没者墓地に行くことからこの作品を始めたようです。

 パミーナ役のエイミー・カーソンは撮影の時はケンブリッジを出たばかり。口を動かさずに歌えるという事で抜擢されたみたいな事が書かれてます。キリ・テ・カナワ、スタッフが聞かせてくれるまで聞いたことはなかったらしいそうです。でも声はよかったです。

 コンラッド氏はGoldsworthy Lowes Dickinsonが1920年代に書いた「魔笛」のエピローグでタミーノが、faithを探し求めてキリスト教世界や仏教世界を行くという事を書き、それについてのEMフォースターの言葉「タミーノとパミーナが受ける火と水の試練は、21世紀のこの苦難を表象(stand for )できるのか、確信が持てない」「モーツァルトがそこまで請け負える事ができるのか」を引き、その後、「魔笛」のテーマとブラナーがメインに据えたテーマについての見解を述べています。


 魔笛 公式サイト(リンク

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コメント

『魔笛』の公式サイト、見てきました。
なるほど〜という感じ。設定は変えてあるのに、無理なく自然に運んでいるので、びっくり。絵的にとてもきれい。歌手も若いですね。
「オペラにおち」って・・・やはり、ぽんずさん、面白いです。
映画になっているオペラでは例の『ドン・ジョヴァンニ』、同じく『カルメン』、これはエスカミーリョ役で、フランス語で歌っていたわ。他に『椿姫』、こちらはライモンディではないのですが、きれいな映像です。どれもLDなので、何とかしなければとおもっているのですが・・・。

すごいなあ。オペラを、最後まで、見れるなんて。
はるぴょんさんだけかと、思ったら、ぽんずさんまで。
でも、まねできない、根性なしな私です。

ところで、ブログが、いつのまにか、ビールから、衣替え?
デザインの変更が、みんな、早いなあ。

はるぴょんさん

 不思議にあってました。
うっかりリンクしてしまいましたが、この公式サイト、画面が動いて変わるのではるぴょんさんはちょっと辛かったのではないでしょうか。私も映画の後にはさすがに読めなくて、記事を書いてから読みました。書く前に読まなきゃ駄目なのに^_^;
 映画になった「椿姫」、ゼッフェレッリ監督のでしょうか?
セットだけでも観る価値ありの椿姫でした。「ドン・ジョバンニ」と「カルメン」の映画、見てないです。もっぱらNHKが放送したのを録画していたので、選択の余地はなかったんです。

>>どれもLDなので、何とかしなければとおもっているのですが・・・。
 LDも再生できるDVDが出来ればいいのですが。LPが復活したように。ソフトの方がプライスレスですもの。

JohnClark 様

>>でも、まねできない、根性なしな私です。
 なんと!なんか意外です。
指揮や歌手、演出について詳細に語りそうなイメージなのに。でも守備範囲でないものが存在するのは、不思議ではないですよね。JohnClarkさんは詳しいものが多いので、それを忘れてました^_^;

>>デザインの変更が、みんな、早いなあ。
 実は元に戻しただけです。
ビールでは寒かったもので(笑)。 

>「椿姫」、ゼッフェレッリ監督・・・
あたりです。
きれいな映画です。

>「ドン・ジョヴァンニ」、「カルメン」の映画・・・
「ドン・ジョヴァンニ」(ライモンディ)は素晴しいです。

はるぴょん様

 椿姫ねあれは豪華な映画でした。

>>「ドン・ジョヴァンニ」(ライモンディ)は素晴しいです。
 ごめんなさい、私「フィガロ」と勘違いしてしまいました。
しかもフィガロは映画になったの観たことあるのに。
キリ・テ・カナワが伯爵夫人を演じているの。
駄目です。もう物忘れひどすぎです。
でも物忘れも良いことがあって、何度見ても初めて見たような感動を覚えるのです。あ、これ私の母が良く言う台詞なんです。へんなところばかり似る^_^;

『フィガロ』・・・
映画でない普通の舞台でのライモンディの伯爵のLDなら持っています。
いやらし〜役ですがコミカルです。
スザンナ役のマクローリンが若くて美人です。

はるぴょん様

 はるぴょんさんの仰るいやらし~なライモンディ、どうも記憶の底なし沼に沈んでいる気がして探したところ、
これでしょうか、↓(ソネブロさんに勝手にリンクですが)

http://blog.so-net.ne.jp/euridiceneeds/2006-02-18
http://www.asahi-net.or.jp/~hy3j-hsmt/opera/figaro.html
(1991年 アバド指揮)

 私これケーブルTVで観ました。二幕で伯爵夫人とスザンナがハイタッチモドキをする演出ですよね。あの伯爵、私好きですよ(笑)。あれがあるからスザンナ達の策謀も生きるというものです。男性陣にはお嫌な演出かもですが(笑)。
あれって日本公演もあったような。新聞評を読んだ気がするんですが、思い違いかもしれません。

リンク先を見ました。
当たりです。
ただ、名前がちょっと違っています。それとテノールではないですよね。
本当にLD整理しないと・・・(DVDーRにしないと)。

はるぴょん様

 ほんとだわ、名前が間違ってますし、バリトンですよね。高い声のアルマヴィーヴァ伯爵やドン・ジョバンニは・・・^_^;

>>本当にLD整理しないと・・・(DVDーRにしないと)。
 方向は違うのですが、私も戸棚と押入の整理をしないと・・・(涙)

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