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2009年2月 1日 (日)

村上春樹のエルサレム賞受賞 アーサー・ミラーの場合を見る

 長い前置きです。
 村上春樹氏のエルサレム賞受賞について、私はmojimojiさんの記事(リンク)や更にtoledさん他ののP-Navi info記事(リンク)の英訳(とスペイン語訳とフランス語訳)記事(リンク)にも賛同したのですが、それは何が何でも止めて欲しいと村上氏に要求したいというよりは、出来れば出ないでくれたら胸をなで下ろすだろうという私の考えの表明の意味しかないつもりでした。mojimojiさんの記事もその様に読めましたし。つまりある考えの表明の様な。

ある意味チャンスですよ、村上さん。事と次第によっては、こちらのリストに載ることになるのでしょう。 >「注意深くお金を使うために」  この話、是非、あちこちで話題にしましょう。どうにかして村上春樹氏の耳に入らないかと思うわけですが、どうしたらいいんだろ?

 確かに最後に村上氏の耳に入らないかと書かれてはいますが、話題にして目に付かせる緩さに安心できました。この記事に賛同した人の中には同じ様に考えた人も多いのではと思います。ただ話の流れからそうは思われてなさそうなのをみて、私の考えについてだけは、自分が説明不足だったと今は反省しています(mojimojiさんやtoldさんには当然それぞれの考えがおありだと思います)。
繰り返しになりますが、私は村上氏に自分の考え通りに行動してもらうことを要求しているのではなく、彼の今回の受賞に対してパレスチナの現在を考えると決して手放しで喜べない、という意見表明をしたいだけなのです。そう言う考えもあるのだと。

 それでは何故手放しで喜べないのかと言えば、これはy_arimさんの記事
「個別論と一般論、具体論と抽象論のすれ違い、問題のレイヤーの違いについて」(リンク

「Aをフルボッコにして大勢から非難を浴びている最中のBが人望厚いCを褒め、モノをくれるという。Aは息も絶え絶えだ。果たしてCはどう振舞うのか、多くのひとが注目している」
 

 これに集約できると思います。特に今はイスラエルのガザ攻撃がちょっと停止したばかりです。この時期に「エルサレム賞」とパレスチナ問題を全く離して考えることは難しいと思います。

 そしてこの賞について調べてみたところ、この賞に付随した部分で、今のパレスチナのおかれている状況と大変似た部分がある事が判りました(やっと本題です)。

 05年の受賞者は劇作家のアーサー・ミラーです。彼は先約があるとして授賞式には出席せず、受賞スピーチを録画して送ったのですが、これは当然予測された事ではあったのですが、その内容はイスラエルのパレスチナ占領を批判するものであり、たまたまウルトラ保守だったエルサレム市長はそれに対し癇癪(Fit of temper)を起こした(1)というオマケが付きました(2)。

 これだけならば良くある事ですが、問題はその出来事について言及している米紙の記事がどう考えても少ない様に思える事なのです。

 ニューヨークタイムズは、「エルサレム賞」についてはほぼ毎回受賞者決定時に報道しているにも関わらず、またグレアムグリーンの受賞については、授賞式でグリーンがそれに相応しいかという抗議があったと話が読書欄とはいえ出ていますが(3)、ミラーの受賞インタビューに関する記事は見つかりませんでした。またミラーの死に6ページに及ぶ追悼文を掲載したにも関わらず(4)、その中でもこの事には触れていません。
ワシントンポストでも記事はありませんでした(あったらごめんなさい)。
アーサー・ミラーに関しての検索もしてみましたが、彼の経歴には「2003年 『エルサレム賞』受賞」とだけあるのみです。enウィキペディアにも書かれていませんでした。
 先に挙げた記事はそれぞれ、オブザーバー紙(英)、ガーディアン紙(英)、左翼の雄ともいえる雑誌ネイション(米)のものです。

 これは無視できる些事なのでしょうか。

 ブックマークでもコメントしましたが、E.W.サイードは「イスラエルと世界(主に米英)はあたかもパレスチナ人がいなかった様にふるまい、そのナラティブ(物語)を奪いとっている」という趣旨の発言をあちこちでしていたのですが、ミラーの行動に対する反応もこれに近いのではないでしょうか。

 「エルサレム賞」が悪い賞だとは思えません(調べて余計にそう思う)。しかし賞の趣旨とは裏腹に、それが利用されている向きも否定できないと思います。

「どうぞ授賞式には何でもなさって下さい。ただし伝えるのは私の意向で」

 ソンタグは何を言うかは明白でしたし、受け入れを表明した方がイメージアップに繋がるでしょう。では何故、やはり苦言を呈しそうだったミラーは駄目だったのか?
穿ち過ぎかもしれませんが、この時の市長の対応を衆目に晒したくなかったのではないでしょうか。ミラーのスピーチはこの賞の中に忍び込んだある種の欺瞞をはぎ取ったのかもしれませんが、それが知られる事がないならば、彼の行為に何の意味がありましょう。

 この姿は私には一般人でも家庭人でもなくテロリストとしての存在しか望まれないパレスチナ人の姿と重なります。少し前のNYTで、読者がガザ在住のパレスチナ人レポーターに質問する記事中に「(一般人の被害が出ていると報道されている事に対して)どうやって一般人とテロリストを区別出来るのですか?区別しているのですか?」という質問がありました。テロリスト以外のパレスチナ人は想定の範囲外かの様です。
何故そうなのか。パレスチナ人に対してテロ以外の部分について殆ど報道されていないからです。パレスチナ問題は今までずっと、この報道の不均衡(特に米国内が酷いですが)という問題が付いて回りました。そしてアーサー・ミラーの受賞スピーチも、それと似た不均衡が見られます。作家のナラティブを黙殺し、都合の良い受賞のみを伝える不均衡が。

 米国に住みながらも、しようと思えばネットなどの情報や本、雑誌などに普通の米国民よりは接する機会の多いであろう村上氏が、他ならぬナラティブを紡ぐ作家としてこの賞をどう踊るのか、または踊らされるのか、踊るつもりが踊らされたようにしか見えなくなるのか、ご本人にとっては難しい判断だと思います。
勿論その判断を私は尊重しますが、それでも私はこの受賞を喜ぶ気になれませんし、喜ぶ記事に賛同することもできません。何をやってもナラティブを都合良く改造してしまう文学賞に対してなぞ。

2/3 追記します
 書いた後、ちょっと無理筋だったと反省していたのですが、今読み返すと、やはり何をやっても都合良くしか(少なくとも米国内に於いて)報道しない事が判っている賞の存在は、全ての作家にとって問題があるのでは?と思ってしまいます。どの記事で読んだのか忘れてしまったのですが、授賞式は招待客のみのクローズなものだそうですし。
授賞式に出席して、ただ受賞して帰ってくるのが村上春樹らしいと仰る方もいらっしゃるのですが、この賞に関してはそれをすると「作家」としてどうよ?と。まあ、アーサー・ミラーの件だけでそう決めつけるのは短絡ですが。
追記終わり。

2/6 再び追記

 「作家としてどうよ?」部分が上手く説明できずにいたのですが、
きちんと説明して下さったブログが存在していました。

 「地を這う難破船」(リンク

 「エルサレムと表現」(リンク

最後に
 05年受賞者のAntónio Lobo Antunes(ポルトガル)と07年のLeszek Kolakowski(ポーランド)については調べ切れませんでした。すみません。


 関連記事

「エルサレム国際ブックフェア」(リンク

↓ちょっとだけ追記しました(太字部分)
 1
 アーサー・ミラーについてのガーディアン紙の記事(リンク


2
 「エルサレム賞」授賞式の様子 オブザーバー紙(リンク
市長は受賞スピーチの返事で「(ミラーの)絶頂期は50年前だった」などと言ったそうです。
そしてミラーはビデオスピーチだったので、市長とスピーチライターは事前にこれを見ている筈とか
(そうしないとお返事スピーチが書けないので)。

 受賞スピーチの全文  雑誌ネ-ション(リンク

 ついでにネーションのソンタグの記事(リンク
「行くな!受けるな!と散々言われた」というソンタグのエルサレムポストでのインタビューを引用して、
「はい、私たちがそう言いました」と書いてあります。

ソンタグについてはニューヨークタイムズでは受賞を伝える短文とこの記事だけがヒットした(多分。漏れてたら済みません)(リンク
その「この記事」には、批判はするつもりというソンタグの言葉と上に挙げた受賞拒否の圧力がすごくて大変だったというエルサレムポストのインタビューだけが載っていたのでした。

3
 ニューヨークタイムズの記事(リンク
オブザーバー紙の編集委員がグリーンの作品にある「アンチ・セミティズム」を非難した、という記事です。

nofrillsさんよりブックマークコメント(リンク)でご指摘を頂きました。
その通りです。オブライエン氏は「グリーンの作品が社会の中での個人の自由についてだったなんて、自力では思いもしなかったろう」と言った???のであって、「アンチ・セミティズム」は受賞後に議論が起こったと書かれておりました。お詫びして訂正させて頂きます。

お詫びついでに、TB頂いたnofrillsさんのブログ「tnfuk [today's news from uk+]」の「コナー・クルーズ・オブライエンについてのメモ」(リンク)にオブライエン氏の発言とその後の議論としての文学教授の投稿文のきちんとした訳が載せられていますので、そちらをご覧頂くようお願い致します
訳して下さって本当にありがとうございます。助かりました。
そして更に、nofrillsさんが調べて下さって判ったのですが、このコナー・クルーズ・オブライエン氏、
サイードの「ペンと剣」に登場しています(ちくま学芸文庫59p)
その部分の抜粋もnofrillsさんの記事に載せられていますので、是非どうぞ。

4
 ニューヨークタイムズの追悼文(リンク

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