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2009年3月12日 (木)

村上春樹「僕はなぜエルサレムに行ったのか」を私なりに受け止めてみた

 読ませていただきました。「文芸春秋」四月号、村上春樹独占インタビュー&スピーチ「僕はなぜエルサレムに行ったのか」

 実は発売日の一昨日10日は心臓カテーテル検査を受ける家族の付き添いで半日病院に、昨日は別の家族の付き添いで前日とは違う病院へと忙しく、とても読めそうもないと思っていたところ、ふと前に(家族の入院時。一年以上前)病院の売店で「文芸春秋」を見た気がする・・・。という訳で待ち時間に売店にひとっ走り。
やはりありました。さほど広くない雑誌コーナーの一角に大量の(7冊位あった)「文芸春秋」だけと、その隣には「Will」と「諸君!」(まだ廃刊じゃないのね)が一冊ずつという、一度見たら簡単に脳裏から消し去れない品揃え。これで良いのかS大病院(汗)。


 で、読みました。

 村上氏は日本からエルサレムの人々に話をするために出かけて行った訳です。そして出かけた後に、こんどは日本の氏の受賞に異を唱えた人に向かって、行動の意味を問いかけるボールを投げたのが今回のインタビュー記事だと感じられましたので、私なりに反応してみました。答えろとは誰にも言われていませんが、パレスチナへの世の中の関心を維持するには答えた方がいいかもと(汗)。

 最初の部分は受賞の打診から受賞発表までのかなり複雑な経緯が、村上氏が昔からパレスチナ問題にコミットしていた事や迷いを、受賞発表後の世間の反応なども絡めて語られていました。インタビュー中話すのは不得意と仰ってましたけど上手いです。そしてずるい(誉めてます)。読んでいるうちにこの決断は大変だったんだなあと身につまされました。私は「行かない方が良かった派」なのですが。 

 それからイスラエル滞在中の話になるのですが、受賞スピーチの中の

「来ないことよりは、来ることを選んだのです。何も見ないよりは、何かを見ることを選んだのです。何も言わずにいるよりは、皆さんに話かける事を選んだのです」

を裏付けるようにここがインタビューの中心だと私は思いました。 

 この部分で一番私がなるほどと胸に落ちたのは、イスラエルの個々の人々に関しての部分です。

 町の人は素朴に裏表なくいろんなことを話してくれましたが、多くの人は多少の差こそあれ、日本人の感覚からすればかなり愛国的です。彼らはイスラエルの公式歴史観をかなり強く注入されているという印象を受けました。学校でたたき込まれ、十八歳から三年間兵役につき、そこで思想教育を受ける。女性の場合は二年です。兵役が終わっても、四十二歳まで年に1ヶ月の予備役があり、会社を休んで軍隊に勤務しなくてはならない。
 

 かなり徹底した歴史観の強要がありながら、氏も述べている様に「独裁国家じゃないし、基本的には言論の自由な国」に住むという複雑さでした。

 私は人間は個々違うというのは当たり前の事だし頭では解っていたつもりでした。しかし「公式歴史観」や「公式国家観」を受け入れる状態というのは、金太郎飴の様などこを切っても同じ反応が返って来るに違いないと思いこんでいた節があります。勿論公式の返答は存在するでしょう。村上氏のインタビュー記事の中にもそう反応した人が登場します。

 ウェストバンクでは有刺鉄線と監視塔のある壁が、ハイウェーに沿って延々と続いています。この壁はイスラエル全土で六百キロ以上あります。ためしに運転手に「この壁は何のためなの」と聞いたら、「動物がハイウェーに出てこないように囲っている」という。動物除けのために、二十億ドルもかけて高さ八メートルの壁を建てるかよと思うけど。  でもそういう発言に対して僕はあえて反論しませんでした。どうしてかというと、そういう主張をする人も、心の底では何か割り切れないものを感じているという雰囲気を強く感じたからです。

 金太郎飴的公式返答をする人に対してさえ感じる割り切れない雰囲気というのが、とてもよく判る気がしました。
実は私は先月「パレスチナ1948・NAKBA(完全版)」の第一章をたまたま観ていました。その中でインタビューを受けるイスラエル人7人の内、マツペン(1)のアキバ・オール氏、イラン・パペ氏を除いた5人中4人が(一人は良く判らなかったのですが)、歴史と自己の矛盾に対して、肯定するにも否定するにもあまりにも違う多様な反応を示していたのです。マツペンのシュロモー・ザンド氏(多分そうだとおもうのですが、違ってたらどうしよう。違うかも。)でさえ、オール氏やパペ氏とは明らかに違う煩悶を示していました。反応も多様なら苦しむ部分(酷い苦しみ方だった)も様々で、金太郎飴とは対極のものでした。この反応を一口で語ることは殆ど不可能に思えて、私は観る前はするつもりだった感想文アップを断念しました。
これが独裁国家ならば人々は公式返答だけをするでしょうから、その答えの下で生身の人間が何を抱えているか、なかなか見えづらかったと思います。また独裁国家ならば罪は独裁者だけのものと割り切れます。しかし民主主義だとそれはできません。自分の責任を感じればこそ反応も複雑になるのでしょうし、その事について自分で考える事を放棄してしまうかもしれません。

 最後に村上氏はイスラエルの持つホロコーストの過去、日本の過去、オウムのサリン事件を織り交ぜながら、氏がシステムと呼ぶ国是や主義等々に取り込まれていく人間を語ります。そしてそんな悲劇は誰にでも起こりうると言います。私も同感です。何処でも誰にでも起こりうる事です。

 イスラエルに住んでいる「漂流博士」さんの一月十二日のブログ記事「日常感覚で冷静に」(リンク)を読むと最初はガザ攻撃に反対だった世論がロケット攻撃を止めさせる為の攻撃賛成に傾いていく様子がよく判ります。過去8年間南部のロケット被弾を放置し補助金もすぐには出さなかった状況の後、

テルアビブに避難してきたり、多くの国民がすっかり南部に釘付けになったことでロケットの恐怖と言うものが随分広く認知されたことは事実だろう。私がかつて留学していた、ガザから40キロ離れた南部最大の街にまで何発も着弾するとは、さすがに多くの国民も思っていなかった。これまで気がつかなかったことへの反省、そして、気がついたら南部は結構大変なことになっている、という認識

 が、ガザ攻撃賛成に結びついた様です。
放置しておき、事が起こったら大々的に不安を煽る。世論を誘導する上手い手です。
そして誘導された世論の結果が、そもそもロケット攻撃を阻止する為のものだったのが、1300人の犠牲者を出した最新兵器によるガザ攻撃になってしまったのです。しかしこれも責任ではあります。


 ドイツは戦後、戦前ドイツとの断絶を敢えて行ったそうです。その話を聞いて、私は断絶それ自体は血の滲む大変な作業だったと思いますが、そのお陰で戦前の体制を外から眺める事が可能となり、徹底的な過去との決着をつける事が出来たのではないかとも思いました。
日本は断絶しなかった、つまりはヒットラーを出せなかった故に、戦前をいつも自分の内側の事として捉えていかざるを得ない様な気がします。エルサレムの人々も民主主義であったが為に建国の歴史の責任を永遠に自分の内側の事として扱わなければならない部分にとても似たものを感じます。そして断罪を自分の存在への疑義と受け取り頑なになる人がでてしまう部分も。
きっぱり断罪できればそれに越したことはないとは思います。しかし実際問題として、責任を内側に抱えたままでの責任の取り方の模索、相手を頑なにさせない決着の模索は、日本とイスラエルだけの話ではない、世界中で進行している様々な迫害や虐殺を終わらせる為にもとても重要で喫緊の課題だと思うし、氏が「白か黒かでは割り切れない」と述べた部分と重なるのではないかと思った次第です。

 これが受賞反対を表明した(リンク)私の、このインタビュー記事に対する受け止めです。


3/21追記

asahi.com 「無抵抗のガザ市民殺害 イスラエル兵証言次々、軍調査へ」(リンク
ここが民主主義国家故の展開だと思いました。召集された一般人もガザに足を踏み入れたということ。
聞いた話によると、イスラエルって国家を持った軍隊と言われるくらい軍関係予算が多いみたいです。
対アラブ戦が存在の大前提となるプロの軍人とそれ以外の一般人の認識の乖離でしょうか。
もっともこの告発を政府に都合良く解釈、または展開させる可能性もあるのでなんら喜ばしいニュースではありませんが、自治区の実態をイスラエル国民に報せるきっかけになってくれればと願います。

蛇足
 このインタビューは全文読んで欲しいのですが、いかんせん他の記事がもの凄く、ちらっと眺めただけでウルトラE難度の論理の飛躍があったりするので、買わずに図書館というのがお薦めです。この雑誌に750円はムゴイ。そもこれが「文芸雑誌」ってところが信じられない!


1
 マツペンはイスラエル内でパレスチナ問題を正しく捉えようとするグループです、確か。すみません。チカラが尽きて調べ直すことができません(大汗)。

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