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2011年9月 3日 (土)

大野更紗「困ってるひと」

 ウェブサイトで連載されていた大野さんの戦いの記。ウェブで読んで、本でも読んで、何度でも読みたい本でした。

 この本が素晴らしいのは軽妙な語り口やとんでもない面白さ、格好つけずにありのままを書いてそれ自体が現在「困っているひと達」の参考になっていること等色々あるのですが、何より一番の理由は、難民を支援し、その難しさを知り、支援を続ける為に、真に支援するとはどういうことなのかを常に考え続けていた人が、自身の闘病を通して社会のあり方そのものを問うている事が、単なる闘病記の枠を越えて広く社会に訴える作品になった理由だとおもうのです。

 病名が判って(それまでも大変だったわけですが)、難病な自分が生きていくには自分を支える仕組みが当然あるはずと大野さんは考えます。しかしそれは驚くほど少なく、しかもそれを受けるには、申請に気の遠くなるような労力を必要とするものでした。

 病室のベッドで山のような書類と格闘する難病人大野さんに主治医の一人、パパ(はパパでも星飛雄馬のパパ)先生はお説教します。彼女だけでなく彼女のパパ、ママにまで。
曰く「社会の制度や障害の制度や他人をむやみに頼ってはなりません。そういった精神が治療の妨げになります」と。

最初は私も大野さんと同じように反発しましたた。病人シバいても無理だってと。でも今読み返すと、日本で普通に生活出来ない病気、治らない病気に罹ったら最後、頼れるものは家族や友人だけなのかもしれません。
その人達に山ほどの手間を掛けさせ、役所に行かせ、さて、それに見合う助けを得ることが出来るのか?

大野さんはたまたま東京に住んでいたので障害者2級でタクシー券が出ました(それを受けられると理解できたのは大野さんが院生でムズイ文章でもくじけなかったからでしょう)。しかしとある難病マダムの住む自治体では、受けられるのは高速のETC割引きだけ。それさえないマダムもいるのです。斯様に福祉は財政状況による地域格差が激しい。
これは福祉は余った金でやるということ、お金がなくなれば(今まさしくそうなのですが)福祉は削るという事です。
戦後焼け野原で何もなかった頃の考え方が見直されずに続いているのだと思います。
高度経済成長期もバブルの時も、この考え方が変わらなかったため、福祉に予算をつける時、お金がない時に削れないと困るという理由から、恒久的財源が必要になるような施策にはとても慎重だったと私は思います。そして自己申請主義を守り通し、必要な人達の前に山ほどのハードルを置いて、資格のある人さえはねつけて来たとも。

余った金でしかしない福祉なら、金がなくなったら一体どうなるのか?その答えの一つが彼女も苦しめられた3ヶ月で退院の制度でしょう。
パパ先生のお説教は、そんな心許ない保障ならば、いっそないものと心に決めろということなのかと考えてしまった今回です。
事実自治体が財政破綻した時、福祉や水道料金などを削り支出を抑えさえすれば、建設債だけは発行できるのです。もし住んでる自治体が破綻したりしかかったりしたら・・・。

 しかしこの様に保障が手薄な社会で、人が一度難病になってしまうと、その人達の背負うものはとてつもなく巨大で深くなってしまうのです。
大野さんの心身もマリアナ海溝に落ち込むが如き状態になりました。これが自宅療養だったら病人と家族は、きっと諸共その海溝の奥底に落ちて行くに違いないでしょう。

難民支援に明け暮れていた頃の大野さんは、国境近くにあるキャンプからチェンマイに戻った時、シャワーとシズラーのサラダバーで「支援者」である自分自身から離脱する儀式をしていたそうです。その儀式があったればこそ彼女は支援を続ける事ができたのだと思います。
でも難病人の家族や友人にはシズラーはなく、いつもいつも、途切れる事なく続く、「助ける側の」、「頼られる側の」自分がいるだけなのです。これは美しい愛や絆や思いやりだけで引き受けられるものでしょうか。もし家族や友人が耐えきれずポキリと折れたら?
多分それは患者の死を意味するでしょう。

こう考えるとパパ先生のお説教「自立せい!」「頼るな!」は、一度難に遭えば身近な人にすがるより生きる道のない日本で生き延びる、ただ一つのライフハックなのかも知れません。パパ先生にシバかれたベテラン患者さん達はそれに呼応して「生き仏」の様な病のエリートになっています。でも、ひょっとしたら、生き仏エリートになれた人しか生き残れなかったのかも知れません。生き残れる難病患者にも適正を求める社会なのかもしれないのです。

 私はこの本を一人でも多くの人に読んで頂いて、今の日本の社会のあり方以外に道は本当にないのか、皆さんと一緒に考えたいと思っています。特に震災復興のため公共事業投資が叫ばれる今、日本の福祉と公共投資のバランスがこれで良いのかどうかも含めて。

大野さんは重病の中この本を書き、ボールを私たちに投げました。そのボールを私はしっかり受け止めたいと思います。今受け止めなくてもまた次のボールが何処かから来るなどと考えては絶対にならないと、この本を読んで改めて感じています。

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コメント

この本、新聞で紹介されていたのを見たのだったか、気にはなってました。
今の福祉は弱者に本当に厳しいものがあって、自治体による格差もいろいろですし、そもそも体がきかないような人が多大な苦労をしなければならないし、そうした情報すらきちんと与えようという姿勢がなくて、できれば知らないで欲しいという印象すら覚えてしまうのは、哀しい現実ですね。
忘れてしまわないようにメモしておかなくては。<買えば忘れないという奥の手は・・・(^^;

ムムリク様

 いや~、ほっとしました(笑)←何が?(爆)

>>できれば知らないで欲しいという印象すら
 そうですよね。少ない予算だけでやり繰りしないといけないのですから、あまり増えて欲しくないと思ってしまうのでしょうけど、受ける方は堪ったものではないですよね。

<買えば忘れないという奥の手は・・・(^^;
 ナニゲに判りますわ。
「暗い鏡の中に」ムムリクさんの記事があまりに面白かったので、是非読みたいと図書館の蔵書検索したらなかったんですよ~。
今ちょっと思案中です^_^;

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