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2012年5月17日 (木)

5月13日しらかわホール ポゴレリッチコンサート

『音楽はどこ?』

 休業から長い迷走の後、今から丁度2年前、09年のコンサートで、ポゴレリッチは奏でる一音一音で作曲者の意図を明確に説明した。その為作曲家の意図に対して彼がどのように対応したのかもはっきり理解できた気がした。曲の体をなさないという批判も長らくあったが、音一つ一つへのこだわりによりそこに生身の作曲家が立ち現れたようにさえ思えた。これほど作者を感じる演奏は83年のホロヴィッツ以来だった。
演奏会場で拍手をし、ブログで褒めちぎりながら、それでも私には一つだけ物足りない想いがあった。
曲をこのように弾いたのは賛同できる。しかしここまでこだわり整えられた曲、このように生々しく作者を甦らせた曲なら、甦らせた作曲家をなぜ動かさないのか。彫り上げられ浮かび上がってきた彫像に何も奏でさせなくてよいのか。そのためにこのように曲を作ってきたのではないのかと。

 我ながら妙な考えだとは思った。それが可能だったとして、そこに現れた音楽がどのようなものなのかさえ想像出来ない。もし、それが出来たら神業だとも思った。にもかかわらず、心の中で私はこの問いを発する事を止める事が出来なかった。
「音楽はどこ?」「ここまできたのに、音楽はどこ?」と。

 『音楽はここ』

 5月13日のしらかわホールで、というより多分今回の来日公演全てで現れたもの、それは音をどのように再現するかを目的とするものではもはやなかった。
作曲家が音の連なりとしての曲を使って現そうとしたもの、音・曲を道具にして私たちにみせようとしたものとでも言えばよいのか。
綿密に、彫刻のように彫り上げられた曲という器を通して、何か、全く別のものが現れた。その演奏を聞いていない人にそれを伝えようとするならば、文学者は長い小説を書き、音楽家は彼の演奏を表現する曲を書く、そういう類のもの。
そして古来から「音楽の神が降臨していた」と表現されてきたもの。
曲で壮麗な神殿を築き、そこに神を招き入れたと言えるかもしれない。
神殿が完全だったとは言わない。しかし音楽の神としか呼べないものがそこに招き入れられたのは事実だ。しかも彼はその神を途切れることなく舞台にずっと鎮座させ、それが存在する事を聴衆に示し続けていた。

 最後のリストのソナタが終わった時、聴衆は誰も進んで手をたたこうとはしなかった。拍手は「この世」の音だ。たたけばその音で神の世界を仕舞いにしてしまう。まだその世界を離したくない。
しかし仕事が終わったピアニストは聴衆にそれを促す。
まばらな拍手が起こり、そしてそれは怒濤に変わった。9日のサントリーホールでも同じ事が起こっていたと聞いた。金沢でも、六ヶ所村でも多分そうだったのだろう。


 曲を曲として美しく素晴らしく奏でる演奏家は多い。彼らはその奏でられた曲の中に、私たちが音楽と呼び習わしただの音と厳然と区別しているもの、音楽の根源・真髄を所々に、あるいは随所に燦めかせている。しかし曲を彫り上げ実像化し、曲そのものをあたかも一つの楽器のように鳴り響かせ依り代(よりしろ)にし、『音楽』『音楽の神』あるいは『音楽の神髄』を、目に見えるのではないかと思えるほどに顕わし続けた演奏家は稀だ。

全てが終わった後、ポゴレリッチの師であり伴侶であった今は亡きアリス夫人の言葉を私は思い出した。

 ラフマニノフ、ホロヴィッツ、そしてポゴレリッチ。

彼女は正しかったのかもしれない。


 プログラム書くの忘れた。

【プログラムB】(5月9日サントリーホール 11日 六カ所スワニー 13日名古屋しらかわ)
ショパン: ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 op.35 「葬送」
リスト: メフィスト・ワルツ第1番 S.514
 * * *
ショパン: ノクターン ハ短調 op.48-1
リスト: ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178

参考までに
【プログラムA】(5月7日サントリーホール)
ショパン: ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 op.11
ショパン: ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 op.21
             (両曲とも弦楽合奏版)

【プログラムC】(5月4日 ラ・フォルジュルネ金沢)
ショパン: ノクターン ハ短調 op.48-1(当日追加)
ラフマニノフ: ピアノ・ソナタ第2番 op.36
バラキレフ: イスラメイ


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